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タンパク質の定量
タンパク質の定量は、
生化学研究分野できわめて多く実施されている操作のひとつで、一般的に溶液中のタンパク質に対して行います。
乾燥重量法(試料を乾燥させて秤量する)は時間と手間がかかるので、まず使われません。
タンパク質の溶解にはpH・イオン強度・温度などが影響するため、水ではなくバッファーに溶解されることが多いです。
バッファーの組成は溶解する目的に合わせて調製します。前後の操作(細胞からの抽出なのか?カラム精製したのか?立体構造を保ちたいのか?など)によるところが大きい。
溶けてるタンパク質と溶けてないタンパク質
タンパク質を構成するアミノ酸には親水性残基と疎水性残基があり、溶液中のタンパク質の分子表面には親水性残基が露出しています。
各アミノ酸の電荷は等電点においては全体としてゼロになり、この性質を利用して等電点沈殿や等電点電気泳動が行われます。
電荷がゼロになる事で、静電的な反発もゼロになり、ファンデルワールス力による凝集が生じるためです。
pHが等電点からズレている場合タンパク質は必ず全体電荷を持つので、(溶液中のタンパク質が1種類の場合)全ての分子は正か負に帯電して反発します。
限られた空間に互いに反発する分子が存在する場合、安定に存在できる分子数は制限を受け、これを超える分子は溶液外に押し出される(沈殿する)ことになります。
溶液に塩を適度に加えることで、イオン強度が増し静電的斥力が遮蔽されるので、溶解度を増すことが出来ます。これが塩溶です。
逆に塩が大量に添加された場合、遮蔽された反発力がファンデルワールス力による引力を下回り凝集が生じます。これが硫安などによる塩析です。
ここでは
1.紫外吸収法(吸光光度法)【280nm】
2.ブラッドフォード法(Bradford法)【595nm】
3.ビューレット法(Biuret法 ビウレット法)【546nm】
4.ローリー法(Lowry法)【750nm】
5.BCA法(ビシンコニン酸法)【562nm】
6.蛍光法【495nm】
を紹介します。
1.紫外吸収法(吸光光度法)【UV(280nm)による定量】
☆原理☆
波長280 nm におけるタンパク質中の芳香族アミノ酸(チロシン、トリプトファン、フェニルアラニンなど)の吸光度(芳香族のベンゼン環に由来する紫外吸収)を測定する。
タンパク質の種類によってチロシンやトリプトファンの含量が異なるのでA280の値は変動するが、一般に1 mg/mlの濃度の時A280は1.0として概算する。
A280/A260< 1.5の時は、核酸の混入が考えられるのでほかの方法を検討する必要がある。(∵核酸は260nmに吸収の極大があるが、280nmの吸収もゼロではないため。)
吸光度の測定についてはODのページでも紹介しています。
特定のタンパク質をより正確に定量するには、そのタンパク質に特異的な吸収値を決定しておく必要があります。
タンパク質溶液に核酸が混入している場合には、核酸の 280nm における強い吸収が、測定値に大きく影響します。この影響は、下記の酵母エノラーゼの結晶を用いた Christianと Warburg の式により 260nm の吸光度を測定することによって補償することができます。
タンパク質濃度 [mg/ml]=1.552*A280-0.7573*A260
もしくは、タンパク質濃度 [mg/ml]=(ファクター 1*A280)-(ファクター2*A260)
この計算式は、対応するファクターの値が分かっている場合には、他のタンパク質にも適用することができます。
特定のタンパク質に対して計算式をカスタマイズするには、この 2 つのファクターを導く簡単な計算式を作るために、濃度の明らかなタンパク質溶液で 260, 280nm における吸光度を決定する必要があります。ファクター 2 が負の値の場合は、260nm における吸収がタンパク質濃度に寄与しないと判断して 0 に設定します。
280nm における吸光度から直接タンパク質濃度を求める場合には、ファクター 2 を 0、ファクター 1 はそのタンパク質の吸光係数とします。BSA(ウシ血清アルブミン) をスタンダードとして利用する場合、ファクター 1=1.115 とすることで、タンパク質濃度 0〜 0.8mg/ml の間で直線性のある定量結果が得られます。
また、ペプチド結合は205nmや224〜236nmの吸収ではかることができます。この波長であれば核酸の妨害を除去できますが、やはりタンパク質によって吸光係数の変動があり、核酸以外の物質により影響を受けるので使いません。
☆長所☆
・ 操作が簡便である。
・ サンプルの回収が可能である。(∵ほかの方法とは異なり、サンプルに試薬を混合しないため。)
・ 液体クロマトグラフィーによるタンパク質精製を行う際に検出器を連結しておくと、連続的にタンパク質の溶出をモニターすることができる。
☆短所☆
・ タンパク質により吸光係数(チロシン、トリプトファンの含量)の差が大きく、コラーゲン(∵構成アミノ酸の1/3がGly)などは測定不可能。
・ 核酸など、280nmに吸収を持つ物質があると不正確になる。
・ 感度が低い。
コラーゲンといえば、新田ゼラチン株式会社さんのゼラチン研究室は面白いですよ☆
2.ブラッドフォード法(Bradford法)
☆原理☆
タンパク質の染色に用いられる色素クーマシーブルー(Coomasie Brilliant Blue。CBB。トリフェニルメタン系青色色素)が、タンパク質と結合すると最大吸収波長が465nmから595nmにシフトすること(メタクロマジー)を利用した方法。
吸収波長のシフトは色素とタンパク質との疎水性相互作用およびイオン相互作用に基づいている。
絶対定量ではなく、比色定量である。スタンダードカーブを得るための標準タンパク質としては、ウシ血清アルブミン(Bovine Serum Alubmine。BSA。)が汎用される。
546〜 595nm におけるランプのエネルギーは比較的低いため、2.000 以上の吸光度は測定できないこともある。
ブラッドフォード試薬は、溶液中のタンパク質の安定化によく使われる還元剤と適合性がある。他のタンパク質定量法(Lowry法、BCA法)は還元剤と適合しない。還元剤を用いた場合は、これらのタンパク質定量法に代わってブラッドフォード試薬を使用する必要がある。しかし、ブラッドフォード試薬は高濃度の界面活性剤とは適合しない。定量するタンパク質サンプルのバッファー中に界面活性剤が含まれる場合は、BCA法が良い。
☆長所☆
・ 操作が簡単で、妨害物質が少ない。
☆短所☆
・ タンパク質により発色率に差がある。
・ 界面活性剤の混入により測定値が不正確になる。
☆測定法の概略☆
タンパク質サンプル溶液とクーマシーブルー試薬をよく混和し、タンパク質を含まないバックグラウンド(タンパク質を溶解したものと同じ液体)との波長595 nm<における吸光度の差を分光光度計で測定する。
タンパク質濃度が明らかな標準サンプル(スタンダード)の吸光度から描いた標準直線から、タンパク質濃度を求める。
3.ビューレット法(Biuret法 ビウレット法)
☆原理☆
タンパク質をアルカリ性条件下でCu2+溶液と反応させると赤紫色の色素を生じる。
これはアルカリ性条件下でCu2+がポリペプチド鎖中の窒素原子(N原子に結合していたHがアルカリの影響で電離しているため、窒素アニオンの状態になっている)と錯体を形成することで発色する、いわゆるBiuret反応を利用したものである。
硫酸銅と酒石酸カリウムナトリウム塩をアルカリ溶液に溶かした試薬(Biuret試薬)を試料に加え、540〜560nmの吸光(A546が一般的?)を測定する。
絶対定量ではなく、比色定量である。標準タンパク質としてはウシ血清アルブミン(Bovine Serum Alubmine。BSAと略される。)が汎用される。
546〜 595nm におけるランプのエネルギーは比較的低いため、2.000 以上の吸光度は測定できないこともある。
☆長所☆
・ タンパク質の種類による発色率の差が少ない。
・ 操作が簡単である。
☆短所☆
・ 感度が低く、低濃度試料には向かない。
・ 高濃度のトリス、アミノ酸、スクロースやアンモニウムイオンなどは発色に影響を与える。
4.ローリー法(Lowry法)
☆原理☆
Biuret試薬とフェノール試薬(Folin試薬:リンモリブデン酸とリンタングステン酸を酸性溶液に溶解した試薬)のそれぞれの発色の組み合わせでタンパク質を定量する。
フェノール試薬はアルカリ性でチロシン、トリプトファン、システインなどの還元性のある側鎖を持つアミノ酸と反応し、青色を呈する(A750)。
銅試薬はペプチド結合と反応し、錯体を形成して紫色に発色する。
絶対定量ではなく、比色定量である。標準タンパク質としてはウシ血清アルブミン(Bovine Serum Alubmine。BSA。)が汎用される。
ブラッドフォード試薬は、溶液中のタンパク質の安定化によく使われる還元剤と適合性がある。他のタンパク質定量法(Lowry法、BCA法)は還元剤と適合しない。還元剤を用いた場合は、これらのタンパク質定量法に代わってブラッドフォード試薬を使用する必要がある。しかし、ブラッドフォード試薬は高濃度の界面活性剤とは適合しない。定量するタンパク質サンプルのバッファー中に界面活性剤が含まれる場合は、BCA法が良い。
☆長所☆
・ 感度が高く(ビウレット法よりも高い)、最も一般的に使用されている。
☆短所☆
・ 還元反応によって呈色しているので、還元物質によって発色が阻害される。
・ 糖や界面活性剤、チオール、フェノール類、グリセロール、キレート剤、トリス、グリシン、カリウムイオンなど、妨害物質が多い。
・ タンパク質によって発色率に差がある。
・ 操作が煩雑で時間がかかる。
☆測定法の概略☆
タンパク質サンプル溶液にアルカリ性銅溶液を加え、その後フェノール試薬をよく混和して、バックグラウンドとの波長750 nmにおける吸光度の差を分光光度計で測定する。
タンパク質濃度が明らかなスタンダードの吸光度から描いた標準直線から、タンパク質濃度を求める。
5.BCA法(ビシンコニン酸法、ビシンコニック酸法)
☆原理☆
タンパク質は濃度依存的にアルカリ性Cu(II)をCu(I)に還元する。システイン、シスチン、トリプトファン、チロシン、ペプチド結合がCu2+をCu+に還元することが確認されている。 BCA(Bicinchoninic Acid。ビシンコニン酸。ビシンコニック酸)はアルカリ環境下でCu+と最大吸収波長562nmの青紫色の錯体を形成する。 この吸光度はタンパク質濃度と比例する。 ビシンコニン酸はFolin-Ciocalteu試薬に代わるタンパク質定量用試薬である。
ブラッドフォード試薬は、溶液中のタンパク質の安定化によく使われる還元剤と適合性がある。他のタンパク質定量法(Lowry法、BCA法)は還元剤と適合しない。還元剤を用いた場合は、これらのタンパク質定量法に代わってブラッドフォード試薬を使用する必要がある。しかし、ブラッドフォード試薬は高濃度の界面活性剤とは適合しない。定量するタンパク質サンプルのバッファー中に界面活性剤が含まれる場合は、BCA法が良い。
☆長所☆
・ 操作が簡単で、感度が高い。
・ 界面活性剤の影響を"あまり"受けない。
☆短所☆
・ チオール、グルコース、リン脂質、硫酸アンモニウムなどにより阻害される。
・ ジチオスレイトール(DTT)や2-メルカプトエタノール(2-ME)、Tris[2-carboxyethyl]phosphine(TCEP)などのジスルフィド還元剤の存在下で定量が阻害される。
・ タンパク質によって発色率が若干異なる。
☆測定法の概略☆
タンパク質サンプル溶液とビシンコニン酸試薬をよく混和して、バックグラウンドとの波長562 nmにおける吸光度の差を分光光度計で測定する。
タンパク質濃度が明らかなスタンダードの吸光度から描いた標準直線から、タンパク質濃度を求める。
6.蛍光法
☆原理☆
フルオレスカミン(Fluorescamine)はそれ自体では蛍光を発しないが、第1級アミン(アミノ基)と反応することにより495nmに蛍光を発する(励起:395nm)。
その蛍光強度を測定することによりタンパク質を求めることができる。
☆長所☆
・ 試料が少量でよい。
・ 試料にフルオレスカミンの溶液を添加するだけでよいので、操作が簡単である。
☆短所☆
・ タンパク質濃度が濃い場合、蛍光のクエンチングが起こって正確な値が出ないことがある。
・ トリスなどのアミン系試薬により測定が正確でない場合がある。
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